ベテラン女性職員と飴ちゃんお姉さん

~人を思う気持ちが奇蹟を生む~

 弘法大師さまのお言葉に「善人(ぜんにん)用心(ようじん)は、(た)を先とし、(おのれ)を後とす」という言葉があります。これは理想的な生き方の人は、他人の事を深く思い、自分の事を後回しにされている、という意味です。この文章は、真言宗の僧侶として生きる為に通る重要な儀式の中で使用されます。この気持ちを持って歩めば、幸せな日常を送れるだけでなく、困ったときに自然と仏さまが助けてくれることが約束されます。

 ですが、中々、自分の気持ちを抑えることは難しいですし、他人を先に考えることの大切さは見えてこないですよね。そこで今回は同じ組織に属していた二人の女性を紹介させて頂きます。

 お一人は何年も組織に貢献してきたベテラン職員の坂口さん、もうお一人はいつも話しの最後に飴を配る中村さん(通称、飴ちゃんお姉さん)です。

 ある時です。グループで行事を完遂しなくてはいけない時に、ミスをした新人職員松本君に、坂口さんは皆がいる前で松本君が間違えた書類を彼の前に突き出して、「あなたの書類、こことここが間違っていました。今すぐに直してください。そうでなければ、大事な行事が駄目になってしまいます」と告げ、書類を松本君のデスクにドン、と置くと、去っていきました。悲しそうにその書類を見つめる松本君。そこに中村さんが現れて、「松本君、一緒に直そうか」と、パソコンに書類の訂正箇所を打ち込みを始めました。今にも泣き出しそうな顔をして、放心状態の松本君もしばらくして、中村さんと一緒に書類を直し始めました。二人で仕事を終えると、最後にいつもの「ハイ、この飴ちゃんを舐めて頑張るんよ」と言い残し、去っていきました。

 仕事が出来る坂口さんは上役からの覚えも良く、順調に出世していきます。片や、中村さんはおっちょこちょいな一面があり、よく失敗を繰り返して平社員のままです。特に坂口さんはよく中村さんを呼びつけては人格的なことを激しく叱責をしていました。ですが、中村さんから坂口さんを始め、他者の悪口を聞くことはありませんでした。

 それはお二人が定年退職の年になった時の事です。坂口さんは長年会社に功績があるので、しかるべき立場で雇用を継続してもらう気が満々です。中村さんは「私みたいなおっちょこちょいを会社は必要としてくれないだろう。残念だが、このまま辞めて新たな所で仕事を始めよう」と考えておられました。

 大きな会議室で役員達が臨席する中、人事異動や退職者の発表がされた後です。会議室からお二人とも出てくるのですが、お二人とも泣いておられたのです。 

 坂口さんは会社から雇用の継続がないことを告げられ、中村さんは会社の会長と社長からから直々に、身体の続くまで若い子の育成に尽力してほしいと懇願され、特別職まで与えられたのでした。

 中村さんに会長さんがおっしゃられたのは戦国時代の武将、武田信玄の言葉とされる「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」と伝えられた上で、「有能な人材も会社としては必要ですが、それ以上に一人一人が気持ちの良い人間になって欲しいのです。信頼される会社を目指したいのです。各所の責任者のお話しを伺い、中村さん以外に頼める方がおられません。よろしくお願いいたします」と、お話し下さったそうです。

 人の事を思い、大切にすることは数値で測ることができません。けれども、厳然とあらわれてくるのです。自らの感情を抑え、他人の事を思う気持ち不可思議な力を教えて頂きました。

 どうぞ、皆さまも利益があるからと他人に優しくするのでなく、自然と周りに温かさを分け与えられる方を目指してください。

 また、この時に裏で起きていたことです。

 さて、会社に功労された坂口さん、多くの方に優しさを分け与える中村さんの定年退職の年が来て、社内ではお二人の人事が話題になっています。また、同じ頃、会社がコロナ禍を越し、これからどういう方針で歩むのか紛糾しています。ようやく、会社の役員会議で答えが出されました。色々と決まりましたが、一番大きな目標は「信頼される会社」を目指そうということでした。会議の途中で課長が全員呼び出され、会社の方針が伝えられた上で、それぞれが持ち場に帰っていきます。ただ、最後まで人事課長さんは残されました。

 信頼をされる会社は信頼される人材がいること、ではその人材をだれが育成するのか、それを適宜にできる人物はいるのか、というお話しです。社長と会長を除き、他の役員は有能で自分たちの言う通りにしてくれる坂口さんを押します。その中で人事課長さんが口火を切りました。

 かつて、私は坂口さんと一緒に働いていたことがありました。その時にミスを指摘 されました。それは当たり前のことです。ただ、その指摘仕方で非常に嫌な気持ちになりました。指摘するにも、指摘の仕方があります。一方的なやり方では、人は気持ちを動かすことができません。心に寄り添ってくれるやり方こそ、現代に合い、人の信頼を生み、人材の育成に必要ではありませんか。私は中村さんが適宜と思います。

 と、発言されたのです。中村さんを押された役員達は自分たちに都合がよい坂口さんが良かったので、怒った顔をしています。しかし、社内にアンテナを張っていた会長さんも社長さんも中村さんの話を常々聞いていましたので、人事課長さんの中村さんを押す意見に納得しました。そこで更に話しが行われ、会長さんと社長さんも肝いりで特別職を作り、中村さんに残ってもらうことが決定いたしました。

 そして、この発言をして、会社を動かした人事課長こそ松本君だったのです。

 人の御縁は不思議なものですね。「情けは人の為ならず」といいますが、本当にその通りだと思います。皆さまの幸せを祈念しています。

 優しさは手を合わすことで養われます。どうぞ、手を合わす機会を作ってください。手を合わす機会、やり方を知りたい方は高野山千手会公式ラインアカウント↓に登録の上、お伺いください。

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